【取引効用理論】なぜ嵐のチケットは10万円ではなく、1万円くらいなのか

嵐のチケットは人気に比べて明らかに定価が安い。これは取引効用理論における内的参照価格が影響する。

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「東大教授が教えるヤバいマーケティング」(阿部誠/KADOKAWA)

ざっくり言うと

  1. 嵐のライブチケットは大人気だが、だからといって10万円になるわけではない。
  2. 2017年にノーベル経済学賞を受賞したテイラーの取引効用理論における内的参照価格で、嵐の価格は説明できる。
  3. 浜崎あゆみのライブはダイナミックプライシングを導入したが、AIによって公平性は保てるか。


嵐のライブは大人気


嵐のライブは大人気で、常にチケットは即完売、プレミア価格で転売される。


しかし、ライブチケットは定価はそこまで高くならない。本当ならもっと高い価格で売れるのに。


チケットの転売問題は音楽業界を悩ませる問題であるが、意見が割れるポイントでもある。


よりファンに来てほしいからという理由でチケットを定価で変えるようにすべきである、という意見がある一方で、経済合理性を考えれば需要があるものが高くなるのは当然なのだから、プレミア価格上等、な意見もある。そしてどちらも一理あるが、議論は平行線になりがちである。


ちょうど僕も大学時代に授業を受けたことのある教授が、マーケティングの面白い本を出している。「東大教授が教えるヤバいマーケティング(阿部誠/KADOKAWA)」である。


ものすごく勉強になった、阿部教授の授業のエッセンスが普通に本に詰まっていたので、普通に驚いた。驚異的に安い価格で大学の半期分の内容が詰まっているなんともコスパの良い本である。ただ1点言うとすれば、この本自体がマーケティングに失敗しているのが残念だが笑。もっと知られてほしい本である。「ストーリーとしての競争戦略」みたいに。



内的参照価格


2017年にノーベル経済学賞を受賞したテイラーの取引効用理論によれば、人間が財・サービスからもたらされる満足度「全体効用」は、製品そのものから得られる価値「獲得効用」と、お得に買えたかを評価した「取引効用」の合計になっているようだと提示する。


暑いビーチでビールを飲む例を考える。暑いビーチという環境下では、ビールそのものをごくりと飲むことから得られる獲得効用に加え、暑いビーチでビールを手にできた時の価格の割安感からくる取引効用からも満足を得られる。


海の家におけるビールは価格が高くなりがちなのは共感できるだろう。消費者が通常スーパーでビールを買う時に予想している価格よりも、海の家で買うビールの価格のほうが総合的に見て高くなるであろう、という消費者自身の予想価格の差が存在する。この消費者の予想価格を内的参照価格と呼び、内的参照価格と実際に支払った価格の差が取引効用なのである。


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「東大教授が教えるヤバいマーケティング」(阿部誠/KADOKAWA)


上図の等価価格は一般的な状況におけるビールの価格、支払価格は消費者が支払った価格、内的参照価格は消費者が予想している価格を指す。


さらに内的参照価格は他の要素の影響を受ける。内的参照価格は、外的参照価格と、外的参照価格が提示されていることによって生まれる支払いに至るまでの文脈や消費者自身の知識量、社会的公平性などの倫理的観点などから決定される。


具体例を挙げよう。嵐のライブチケットは2019年のライブにおける一般的な席の価格が9,000円である。これが外的参照価格、いわば定価である。


嵐のファンはこの定価を受けて、例えば「嵐が2020年に解散しちゃうから、今のうちに観ておかなきゃ」などのTPOの影響を受ける。これが文脈である。


さらに、知識の影響を受ける。レモン市場の記事でも紹介したが、消費者自身の商品に対する知識、たとえばこのライブは特別にショーが開催されるのでこの定価は割安だ、などの知識を持っている。


最後に、社会的公平性などの倫理的な影響を受ける。例えば、嵐のチケットが10万円だとする。この場合、ファンは「ジャニーズが嵐のファンを食い物にして暴利を貪っている」ように見えるだろう。こうなると、いくら嵐が好きでも不快感を覚える。実は嵐のチケットがいつまでも定価があまり上がらないのは、この社会的公平性をジャニーズ事務所が考慮した結果である。



浜崎あゆみの挑戦


いくら社会的公平性があるとはいえ、ライブ収益はアーティストや事務所にとっての生命線であり、稼げるならば稼ぎたい。そこでアマゾンなども導入している動的価格、ダイナミックプライシングが試験的に導入され始めている。


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ダイナミックプライシングはよりファンの需要に基づく内的参照価格を的確にすくい上げて収益にできる可能性があるため、企業からは特に注目を集めている。動的価格を参照するアルゴリズムがあり、AIで的確に価格を変えることができるらしいが、、


ファンの気持ちになってみると、価格が一定でないことが不公平感を生まないかな、とも考えられる。「顧客に適正価格でチケットを提供できる」かもしれないが、副作用が生じる可能性も考えておきたい(おすすめはシステムシンキング)。いずれにせよ、この成功or失敗が音楽業界の儲け方を変えることだろう。



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