【NFT】アート・コレクションの救世主?NFTは経済学的に流通しうるのか?紙幣の流通から考える。

突然人気を博したNFT。アート、コレクションの救世主になりうる可能性を秘めているが、経済学的に流通出来る条件を洗い出して検証してみた。紙幣の流通がヒント??


ざっくり言うと

  1. アート・コレクターの唯一性をもたらす新しい仕組み、NFTが大流行。一方で問題も。
  2. 経済学的に新たな概念が流通する条件を整理してみる。紙幣の流通がヒントになる??
  3. NFTは価値証明として流通しうるのか?ブロックチェーンそのものを信頼できるか、あるいはビッグユーザーが現れるかが鍵。


NFTが大流行。NBAも導入する?一方で問題も増えているような。


ブロックチェーンの新しい応用可能性として、NFTが大流行し始めた。技術者の視点にたてば、今さらブロックチェーンの一側面が切り出されてライトアップされているようなものだが、有名人が注目したとか、サービスとして成立させたプレーヤーが現れたとか、NBAがブロックチェーンゲームを出して進出したとかで急激に浸透し始めている。



NFTはコレクターにとっては最高のツールだ。コレクションとは常に本物かどうかが最大にして唯一の条件である中で、トークンという同じく唯一性のあるものが紐付いて所有権が証明されたと考えれば、今まで家で眠っていたコレクションについてオンライン上で所有権を主張できることになるので、承認欲求を満たし、流通を促すことになる。


現在は所有権を証明しづらい領域、デジタルアートやゲーム上のトレーディングカードに対して流行を見せているが、本当にNFTに身を預けて良いのだろうか?リアル領域での証明も可能なのだろうか?


さっそく問題も起こり始めている。NFTマーケットプレイス「OpenSea」で落札した商品がこつ然と姿を消したのだ。これは著作権違反の画像がマーケットプレースに出品され、利用規約上プラットフォーマーに画像を削除されてしまうからである。これにより、NFTは一部のデジタルコンテンツを除く殆どの場合において、商品そのものを購入しているのではなく、あくまでその商品に向けたトランザクションを分散台帳に書いているだけだ、ということが多くのNFTで騙されたユーザーにより実感された。出品者や購入者保護が行われる可能性は、現状低い。



国内ではIT大手のGMOがNFTへの参入 を発表した。代表の熊谷氏はアートコレクターでもあり、ブロックチェーンとアートの価値保全に当然興味があるのだろう。


思惑が入り交じるNFTであるが、本当に浸透できるのか?経済学的に最も成功した価値交換ツール、紙幣の歴史から紐解いてみよう。



新しい価値交換ツールが流通する条件とは?


今回はただの経済学の本ではなく、天才、長沼伸一郎が独自の視点から経済学を解釈した本、「現代経済学の直観的方法(長沼伸一郎/講談社)」 から紙幣の歴史と流通の条件を引用してみよう。


従来より貨幣として流通する条件は金や銀、銅で出来た貨幣であり、そのものに価値があった。しかし紙幣は単なる紙であり、それ自体に価値はなく誰かが価値があることを証明することで成立するものである。


世界初の紙幣は元の時代のモンゴル紙幣と言われているが、これは軍が利用を強制したいわば軍票と呼ばれるもので、起源としてはあまり参考にならない。紙幣の流通の起源としてより現代に通ずる発展を遂げたのは1694年に成立したイングランド銀行における銀行券である。


当時はカトリック派とプロテスタント派が激しい対立をしていた名誉革命の時代で、イングランドは深刻な治安悪化の状態にあった。市民たちは自分の資産である地金を守るため、職業柄強固な金庫を持っていた金細工師のもとへ行き、保管を依頼した。その代わりとして引き変え証書を渡していた。やがてこの引き換え証書が地金への引き換えを保証しており、地金より圧倒的に持ち運びやすいということで市場で流通するようになった。つまり引き換え証書でモノが買えるようになったのである。当然だが、それぞれの引き換え証書は金細工師が勝手に発行したもので、本来流通するべきものではないし、その価値はまちまちになって町が混乱していた。そこで国が動き、各地域で流通していた引き換え証書をイングランド銀行券に置き換えることになったのである。


実はこの時、金細工師が預けてもらった地金を元手に他の商人(下図では北国、となっている)に又貸しを行っており、事実上の銀行業に似たようなこともやっていたことが知られている。


結果として一つの地金から、「紙幣としての引き換え証書」と地金そのものに価値が増殖していることが分かるだろうか。下図を見てほしい。もともと市民によって預けられた地金は、市民に渡された引き換え証書と、商人に又貸しした地金分、単純計算で2倍になって市中に流通している。これが基本的な価値増殖のメカニズムであり、経済成長を促す原動力になっている。もちろん、現在の銀行もやっていることは同じで、又貸しで経済の回転速度を上げる役割を果たしているのだ。



紙幣のもたらした価値増殖のメカニズムが、NFTにおける価値増殖を紐解く鍵になる。



NFTは新しい価値として流通しうるのか?


では今大流行になっているNFTは新しい価値として流通しうるのか?結論から言えば、政府がきちんと取り仕切るか、NBAのような大きな団体が流通を担保して行けばイエスだ。


現在のNFTはまさに各地域の金細工師が勝手に自前のブロックチェーンで流通を行っている状態であり、完全に無法地帯と化している。詐欺などの問題も多く、一見するととてもじゃないが流通できるとは思えないと考えるかもしれない。


だが紙幣流通の歴史も結局イングランド銀行が取り仕切る形になり、既存の金細工師の引き換え証書は一定の価値があるものとしてみとめられてしまったのだ。要はブロックチェーン取引所のプレーヤーが一度承認を受ければ儲け放題になったのと同じで、結局流通してしまえば勝ちだ。


だがNFTの流行が持続できるか、そちらのほうが問題だ。紙幣の流通は経済成長により急激に増大した取引高を成立させるため、市況側の際限ない紙幣へのニーズがあった。だがNFTはどうか。現在はNBAなどのプレーヤーで一時的にゲームやデジタルアート領域で流行しているが、詐欺も増えてきた。本当にニーズを増大し続けられるだろうか。流通を成立させるためには、ユーザーが商売としてデジタルアートをどんどん流通させるか、あるいはいわば又貸しのような行為、例えばNFTで買ったものをより高い値段で売りさばく、といった行為が連鎖していく必要がある。NFTはリアルアートとの紐付けに大きな欠陥を抱えたままだ。結局サザビーズのような、アートの流通で信頼がおける機関が協力にNFTを推し進め、価値交換を担保しなければNFTは立ち位置を獲得できないだろう。実際サザビーズもNFTを始めるようだ。


もし信頼できる機関が出てきたとして、次に私が疑問を持つのはそもそもブロックチェーンである必要があったのか、ということである。皆が価値があると思う状態が紙幣の流通条件であり、たしかに暗号資産としてブロックチェーンは価値を帯び始めた。だが本来ブロックチェーンは分散台帳の価値保証の仕組みだ。これでは新しい通貨の新しい特性が全く生かされないではないか。誰もが分散台帳の価値にまっとうに答えようとしない。私はもはや分散台帳にインフラで言うところのデータのレプリケーション(複製)以上の価値を見出していない。つまりこの技術は欠陥だらけだ。だが、世間が信じてしまっていることこそが、価値を生んでいると感じる。個人的には技術としての興味は無くなってしまったが、金融商品や通貨としての興味は今も持っている。中央政府によらない新たな価値流通の仕組みが、どこまで既存のシステムに対抗できるか、アーティストの生活を変えうるのか楽しみだ。




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