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【アーキテクチャの生態系】webサービスの特性が人を動かしている


ざっくり言うと

  1. アーキテクチャが人間の構築する社会を制御する?
  2. 生態系の構築とは。進化論を整理する。
  3. ニコニコ動画の革新性。祭りの追体験。


アーキテクチャと社会構造


前回は仕掛学というミクロの視点から人間の行動を誘引する仕組みを紹介した。


【仕掛学】ついしたくなる仕掛け


今回は視点を更にマクロに広げ、サービス自体が持つアーキテクチャ(構造)がもたらす社会への影響を考えてみたい。


と、ここまで書くと何だか難しい内容に思えるが、我々は日々サービスの特徴がもたらす社会への影響を受けている。


Twitterでの炎上である。Twitter以前は問題発言などはテレビや井戸端会議に限られ、炎上する地域は限られていた。


だがTwitterの登場と浸透は、何気ない一言が様々な解釈で受け取られてしまい、日々誰かが炎上している状態を生み出した。


次第に人びとはただの「日記」として気軽に活用してきたTwitterでも発言の倫理的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)が求められ、身動きがとれなくなっているのだ。


沈黙は金、という風潮は、現代人の臆病な性格へ甚大な影響を与えている。


つまり、webサービスの構造は社会構造への影響を与えているのだ。


2008年と古い本であるが、当時のウェブサービスについて深く研究し解説している唯一無二の評論が、今回紹介する「アーキテクチャの生態系 (濱野智史/NTT出版)」である。


本著は日本独自のサービスとして2ちゃんえる(現5ちゃんねる)、ウィニー(ブロックチェーン技術と非常に似た分散型ファイル共有ソフト)、ニコニコ動画などを取り上げ、ユニークな視点から分析している。


まずは概論として、生態系がいかに生み出されているか、という話から始めよう。



生態系と進化


筆者は、ウェブサービスの生態系に関するコンセプトを、経営学者の藤本隆宏氏の「生産システムの進化論」から引用し説明する。


「進化」とは、進歩しているのではなく、単なる偶然の産物による「より複雑なものへの分化」にすぎない。
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分化したそれぞれの種の淘汰あるいは存続によって、結果たまたま存続したものが最適化されたものとして次世代に引き継いでいる。

ここで注意しておきたいのは、前の世代の種は次世代の発展をあらかじめ予期したものではなく、偶然でしか無い、というところである。


ウェブを開発したティム=バーナーズ=リーは、のちのち現れるグーグルやブログ、Twitterなどは決して予期していないのである。


筆者はウェブサービスに対しても生態系のコンセプトを適用し、日本においてはとりわけ特徴的な生態系が生み出されていると指摘している。



ニコニコ動画の革新性


日本独自のアーキテクチャを持つサービスの一つが、ニコニコ動画である。



特徴は、動画の上に他の人が残したコメントがタイムラインに合わせて流れるところにある。


YouTubeなどの動画コンテンツを見てもらうことに振り切ったコンテンツとは異なり、他の人のコメント込みで動画を楽しむアーキテクチャを持つ。


筆者はこの特徴を、「祭りの追体験がいつでも得られる」と一言で表している。


従来、インターネットは文字や動画を後から見る非同期なコミュニケーションが基本であった。


しかしニコニコ動画は動画にコメントを載せることで擬似的な同期コミュニケーションを実現している。


いつでも祭りを追体験できる、というわけである。


更に筆者は、ニコニコ動画のコメント数で分かる盛り上がり、という客観的な指標が、自分のリアクションが正しいかを推し量る日本人の特徴にフィットしていたのでは、と指摘する。


動画の笑いどころをコメント数が教えてくれることで、引っ込み思案な日本人にリアクションが正しいことを教えてくれるアーキテクチャなのだ。


上記の筆者の指摘は鋭い。先程はアーキテクチャが社会を規定すると書いたが、実は社会にフィットしたアーキテクチャが生き残っているだけなのではないか、という逆転の論理なのである。


webサービス、特にSNSを構築する上で、社会や分化的規範を意識する必要がある。さらに、社会的責任があることを教えてくれている。