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【コンサルタントの道具箱】欧米の一休さんこと、ワインバーグのとんち話「サービスが良すぎて提供側がサービスを止めることがある」
ざっくり言うと
- 実は2回目の紹介。僕は欧米の一休さんと呼んでます。
- 鉄道の逆説と鉄道の逆逆説。サービスがひどいと提供が拒否されるし、サービスが良すぎても提供を取りやめる。
- 観察データの誤りが導く恐ろしい結論。データがあるものと無いものをどう捉えるか慎重に。あと中年が説教じみる理由を解説。
欧米の一休さんこと、ジェラルド=ワインバーグ
今日紹介するのは、天才コンサルタントにして欧米の一休さん、ワインバーグさんの「コンサルタントの道具箱」である。
実はこの本を紹介するのは2回目だ。前回は「願いの杖とケアリーのゴミ警報」という道具を紹介した。願いの杖は、率直に希望を伝えるコツ、ゴミ警報は、物事の中で取り組むべきことと取り組むべきでないことを見分けるシグナルのことである。
ワインバーグはエンジニアにとってはおなじみで、問題発見能力(ふつうは問題解決力が問われるが、ワインバーグが得意とするのは問題発見能力だ)に関しては一線を画する。
著名な本ではライト、ついてますか―問題発見の人間学(共立出版)があり、最高のとんち話が詰まっている。僕も定期的に読み返しているので、思わず2回目の紹介である。
今回は道具箱の中から、データの見方を誤るととんでもない結論を導いてしまう話を紹介しよう。
鉄道の逆説。サービスがひどすぎるとニーズも見つからない。
ある鉄道会社の幹部が、ある駅を停車駅にしてほしいという要望を拒否した。状況を調べたところ、その時間には駅で待っていないからだという。そもそもその時間電車が停まらないのだから、待つ理由なんで無いのだが。
つまり、サービスが満足でないから、客がサービスを利用しない。結果サービスの提供者側がサービスにニーズがないと判断し、提供の要望を拒否してしまうという恐ろしい誤りだ。
逆のことがコンサルタント業界で起きている。「サービスが良すぎると、評判が聞こえてこないため、提供側がサービスを取りやめてしまう」。
これはどういうことか。コンサルタントは日々仕事をする中で、クライアントから一向にコンサルに関する評価の声が聞こえないことを思い悩む。「もしかしたら自分がやっていることが評価されていないのではないか」。実はそうではない。評判が聞こえないことは、サービスに満足しているからなのだ。暇そうな上司が一番良いパターンと酷似する。
もう一つ紹介しよう。ある仕事の進め方に関して上司の態度が不安な部下は、上司の秘書に相談した。秘書は「上司は忙しいだろうから、都度上司に相談するやり方は上司は好まないだろう」と答え、部下はその通り相談せず仕事をして失敗した。
秘書は上司のことを完璧にわかっていたのだろうか。秘書は、あくまで秘書であり、上司の本心まで理解しているわけではない。部下自身が上司に確認してしまったほうが早かったというわけだ。これもデータのとり方を誤ったことによる問題である。
観察データの誤りが導く誤った結論
観察データがあるときに、観察データを軽視したり、観察データを重く捉え過ぎたり、観察データがない世界線を捉えそこねたりする。経験も同様だ。なぜ中年の話は説教じみるのか。これは経験の過信で、自分はすでに新人が経験した内容の結論を分かっている、と勘違いするからである。そして大体の場合、この説教は当たっていない。だが新人も説教を受け止めたときに、観察データを軽く見て、中年の説教なんて当てにならない、と思ってはいけない。
あくまで第三者の視点を自分の中に持ち、公平にデータを扱ってみたり、データを敢えて扱わなかったりしてみてほしい。複数の世界線をみる訓練をワインバーグは道具箱として面白おかしく紹介してくれているのである。