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【OKストア】現金支払3/103割引のトリックとプロスペクト理論
ざっくり言うと
- 関東を席巻する激安スーパー、OKストア。
- 3/103割引は現金還元のみ。これは3%引きでは無いことに注意しよう。家電量販店のポイント還元とおなじなのだ。
- 現金受け取り徹底とOKカードをプロスペクト理論で加入してもらう仕組み。
OKストア躍進
みんな大好きOKストア。
首都圏のロードサイドを中心に展開し、激安スーパーとしての地位を確立。顧客満足度調査のスーパーマーケット部門で、7年連続1位を獲得した急成長企業である。
強みはとにかく安いこと。Everyday Low Priceの名に恥じぬ圧倒的な低価格を展開し、週末になれば駐車場は満車、道路に車の行列があればそれはマクドナルドかOKストアである。
OKストアには食料品を3/103割引するオーケークラブという会員制を採用しており、会員数は2019年3月現在で491万人を突破している。首都圏の世帯数を考えるとざっくり20-30%くらいは保有しているのではなかろうか。
OKストアの競争の厳選は低価格以外にも、このオーケークラブのからくりが作用している。まずは3/103割引の秘密から説明しよう。
3/103割引のマジック
食料品は3/103割引になるわけだが、実は多くの人がこれを3%引きと勘違いしている。
だが、これは決して3%引きではない。3%引きとは3/100割引である。3/103割引は百分率で言えば2.91%引きとなる。
3/103 * 100 = 2.91262136%
環境省のレジ袋有料化のときもレジ袋の利益貢献が話題となった。OKストアの3%と見せかけて0.09%分の錯覚を起こす仕組みは、重要な利益貢献である。
10,000円の買い物をした時、0.09%分の錯覚金額は9円である。OKストアの2020年3月期の売上高は4,347億円であるから、総錯覚金額は単純計算で3.91億円になる。馬鹿にならない。
実際には3/103割引とは家電量販店のポイント還元と似ている。家電量販店は10%ポイント還元とすることで見かけ上10%引きになったように見えるが、実際はポイントは次回のお買い物の時に利用できるため、次回のお買い物の無料分、分母が増えて10/110割引となる。これは初回の金額から9.09%引きしたものと同じである。
初回で1,000円、次回に100円分のポイントを利用すると考えれば、10/110割引になるイメージはわくだろうか。
100pt /(1,000円 + 100円) * 100 = 9.09%
家電量販店はよくアマゾンより10%程度高く金額を設定しており、その分ポイントで還元するので実質アマゾンと同じ値段だ、というような説明の仕方を消費者にすることがあるが、実際は1%程度アマゾンより家電量販店のほうが高いのである。詭弁。
とはいえ実店舗のサポートは安心感があるので、個人的には家電量販店で買いがちだったりする。
OKストアとしても3/103割引前後の金額を併載しており、いちおう説明した体になっているが、ほとんど3%なら正直3%引きに見えているだろう。
99円が100円より安く見える心理効果と同様、安く見える効果が働いているのである。
現金還元とカードを作る仕組み
OKストアの現金還元はオーケークラブ会員でないと適用されない。ユーザーが初めてOKストアで買い物した時の体験を踏まえると、実はここにもオーケークラブ会員になる巧妙な仕掛けが隠されている。
始めて買い物をした消費者は、基本的に3/103割引の値段が赤く表示されており、この値段で買物をできていると勘違いする。
そしてレジにいくと見た値段よりちょっと高く、「えっ」となる。消費者は損した気分にさせられるのだ。そこで販売員は「オーケークラブ会員になれば3/103割引が適用される」と説明するのである。
心理学の有名な理論、プロスペクト理論によれば、人間は損失回避傾向があり、人より得をしたことで得られる効用よりも損失を得た時のショックのほうが大きく感じられる。損を回避したがる生き物なのだ。
そのため、始めて買い物をした消費者は次回以降の買い物の損失を回避するため、オーケークラブ会員になる。以降は3/103割引の魅力が常時適用されるので、OKストアでしか買い物しなくなっていくのだ(経済学用語では、ロックインと呼ばれる)。
ユーザー体験をはじめからトレースすると、OKストアの施策は実に巧妙であると言える。
参考
プロスペクト理論を始めとするマーケティングの基本的な内容を含めた本を、ちょうど僕も大学時代に授業を受けたことのある教授が出している。「東大教授が教えるヤバいマーケティング(阿部誠/KADOKAWA)」である。
ものすごく勉強になった阿部教授の授業のエッセンスが普通に本に詰まっていたので、普通に驚いた。驚異的に安い価格で大学の半期分の内容が詰まっているなんともコスパの良い本である。ただ1点言うとすれば、この本自体がマーケティングに失敗しているのが残念だが笑。もっと知られてほしい本である。「ストーリーとしての競争戦略」みたいに。