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【東大教授が教えるヤバいマーケティング】レクサスとトヨタ、天然水の躍進はスキーマ不一致がカギ
ざっくり言うと
- マーケティングの大失敗、透明なコーラ。
- 適度なスキーマ不一致を利用したレクサス・トヨタ。
- 適度なイネーブラー、サントリー天然水スキーム。
透明なコーラ
1992年、ペプシコーラは追い込まれていた。周りがヘルシーなイメージのコーラを出し始めたのである。7UPは不純物ゼロをアピールした「Uncola」を出し、黒い炭酸飲料であるペプシコーラをケチョンケチョンに批判していました。
ペプシコーラは対抗戦略として、無色透明なカフェインレスコーラ「CRYSTAL PEPSI」を販売するも、評判が悪く、わずか1年で販売停止に追い込まれる。
適度な違和感、レクサスとトヨタ
もう少し事例を掘ってみよう。近年新車販売台数で圧倒的な優勢に立つ、レクサスとトヨタである。
2005年、トヨタは北米向け高級車ブランドであったレクサスを日本に参入させる決断を行う。きっかけはメルセデス・ベンツといった高級輸入車の台頭である。
最初はトヨタのセルシオやソアラのエンブレムを変えただけの車種を高く売っていたのだが、やがてレクサスだけがデザインを一新する。このころはトヨタは80点のつまらない車、との印象が強かった時代。壊れないけどほしいと思わない車が溢れており、ちょうどマツダがデザインを一新して躍進し始めていたことから、トヨタは国内販売台数が天井を迎えていた。
レクサスは2012年くらいからデザインを一新していき、個性の強いデザインが国内で受け入れられ販売台数を伸ばしていった。僕も大学生の時に、レクサスの福市プレジデント(2014年当時)が東京大学に講義を行うということで聞きに行ったのだが、ここで話されたデザイン論がちょうど今回紹介するスキーマと全く同じ構図だったので驚愕した。見事に顧客心理をついたデザイン論だったからである。
福市氏はレクサスの個性の強いデザインについて、「賛否両論が出るくらいの違和感をもつデザインが良い」と熱弁していた。初めて聞いた時は「それって売れないんじゃ」と思ったが、後でマーケティングのスキーマを当てはめると、見事に注目を集めるデザインとして的確なのである。
消費者は新しい製品に対して既存のスキーマ(イメージ)を当てはめて理解しようとする。このイメージがずれると違和感となり、人はより多くの情報処理を行うようになる。だがあまりに違いすぎると、別物として扱ってしまう。
マーケティングにとって重要な注目を集める、という観点でいれば、程よい不一致が最も注目を集められる。それ以下ではつまらないし、それ以上では理解を諦める。
レクサスの成功はトヨタに受け継がれ、トヨタは3年ほどまえからデザインが個性的なものに生まれ変わった。結果いまや盤石の地位を築いているのだ。一方、前述した透明なペプシはあまりに不一致が極端なため、消費者からそっぽをむかれてしまった。
サントリー天然水シリーズの軌跡(イネーブラー)
だが、日本では透明な飲料で成功した商品がある。そう、サントリー・南アプルスの天然水&ヨーグリーナである。
これは2015年に発売され、またたく間に日本中を席巻し、大ヒット商品となった。
これは実質ヨーグルト味のジュースなのだが、透明な色が受けた。なぜか。これは天然水がイネーブラー(enabler)として機能したからである。つまり、違和感が天然水とヨーグルトのイメージで適度に緩和され、注目を最も集められる状態となったのである。
イネーブラーとは特徴の違和感を解消できる機能を指し、今回は天然水があたる。もしも透明なコーラもイネーブラーが存在していれば、顧客の違和感を適度な状態に抑えられた可能性がある。