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【企業分析力養成講座】手早く核心を突いた企業分析を可能にする魔法のフレームワーク
ざっくり言うと
- ざっくり企業分析をやってアイデアを生むために、超独特な分析本、「デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座」を紹介。
- 9つの視点で企業を分析するフレームワーク。連動性が面白い。
- 投資キャッシュフローと営業キャッシュフローに基づくフレームワークも勉強になる。企業の成長が止まる瞬間。
ざっくり企業分析がアイデアを生む
今回は個人的な隠れた名著を紹介する。ざっくりと企業分析を行う時には大変重宝している本だ。
あらゆる企業分析をざっくり(暗算するくらい)とできると、アイデアが生まれやすくなる。サービスを考える上でも、投資銘柄を探す上でも有用だ。
ざっくり企業分析をやるためには、決算書や企業資料、実際の店舗やビジネスモデルをパラッと見て価値ある情報に頭の中で構築していく必要がある。だがこれをやるには強力なツールが必要だ。
そのツールを色々と授けてくれるのが、デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座 (山口揚平/日本実業出版社)である。プロからすれば簡略化された分析かもしれないが、僕が着目しているのは核心を突いた独特なフレームワークである。読んでいてアハ体験が止まらない。
企業分析の9つの視点、連動するフレームワーク
著者の山口揚平氏によれば、企業分析は下記の9つの視点で行うものだという。そして各視点は連動する。
まずは社会動向だ。昨今だとコロナが典型的な動向であるが、景気やトレンドも含む。社会動向は各業界の市場構造に影響し、為替、原油、金利といった形でマクロ経済へも影響する。
市場構造はやがて市場に魅力を感じたプレーヤーの参入を呼び込むことで競争構造を生み出し、競争構造を勝ち上がるために事業構造(ビジネスモデル)が形成される。低価格を押し出すプレーヤーもいれば、高級路線で攻めるプレーヤーも現れるのだ。
収益構造、これはP/Lとあるように損益計算書のことだが、これまでに紹介した要素が下図のイメージで効いてくる。マクロ経済はそれぞれ、為替が売上、原油が営業利益、金利が当期利益に効いてくる(イメージは製造業)。市場構造は売上に左右し、事業構造は営業利益に作用してくる。
次がB/S(貸借対照表)への作用である。当期利益はB/Sでは純資産に計上されるわけで、純資産のうち株主が保有する資産の時価が株価である。株価は資本政策、つまり自社の資本の利用の仕方や諸費者、株主とのコミュニケーションに当たる部分によっても影響を受ける。
以上のような9視点が決算書を絡めて有機的につながっているので、このフレームワークは見た目以上に有用だ。僕は頭の中にこのフレームワークを意識しながら、普段の生活や株式投資における銘柄分析に活用している。
投資キャッシュフローと営業キャッシュフローで企業の現ステージを見極める
もう一つだけ紹介したい図がある。キャッシュフロー計算書に基づいて企業の現状と成長可能性を見極めるフレームワークである。
営業キャシュフローは本業での現金の増減、投資キャシュフローは本業他投資活動全体における現金の増減を示すが、一般に企業が成長しているときは営業キャッシュフローはプラスになり、投資キャッシュフローはマイナスになるのが基本である。
だがやがて営業キャッシュフローも高止まりし、投資余地が無くなって投資キャッシュフローもプラスとなる。これが停滞期だ。さらに営業キャッシュフローがマイナスになると、これまでの資産を売却する必要に迫られる。これが低迷期。やがて売却する資産もなくなり、破綻期へとむかうのだ。
このフレームワークはがすごいのは、企業の成長余地を明確に示す点だ。
2008年当時だが、マイクロソフトが停滞しグーグルが成長過程にあること、当時のダイエーが苦渋に立たされていることが如実に示される。
投資余地がない時の企業は投資キャッシュフローがプラスになり、次なる一手が見つかっていないことを示す。これを意識して生活すると、日々のニュースでいかに飲食業や航空業界が強烈な資金調達や資産売却に迫られているかが想像できるようになるのだ。だが同業界でも積極的に投資をしている企業があらわれた場合、次なる時代の勝者になる可能性が高い。不動産業界におけるヒューリックは積極投資を都心部で行っているが、これは期待が持てる、といった判断ができるようになる。ぜひ本著の強烈な分析フレームワークに触れて、自分なりのエッジの効いた分析を試みてほしい。優れたフレームワークを自作する事例としても使えるだろう。