Gonjitti Blog
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【タイパへの逆襲】なぜZ世代は“手間”のかかる平成レトロを愛するのか?

「タイパが悪い」

その一言で、あらゆるものが切り捨てられる時代。 映画は倍速で観て、音楽はサビだけを聴く。 それは、単なる時短術ではない。 「失敗したくない」「最短距離で正解にたどり着きたい」という、現代社会に蔓延する「正解主義」の現れなのだ。

だが、本当にそうだろうか?

引き出しの奥に眠るMDウォークマンを思い出してほしい。 コンポの前で、CDを一枚一枚、等速でダビングしていたあの非効率な時間。 あの手間のかかるプロセスにこそ、僕らが失ってしまった何かがあったのではないか。

今、Z世代が熱狂する「平成レトロ」の本質は、この「非効率の価値」の再発見に他ならない。 これは、タイパという名の「失敗恐怖」に対する、静かな、しかし力強い逆襲なのである。


ざっくり言うと

  1. Z世代は、タイパ(=失敗回避)社会へのカウンターとして、あえて「手間」のかかる平成レトロを楽しんでいる。
  2. その本質は、失敗が許される世界で「身体感覚」と「自己決定感」を取り戻す、極めて人間的な行為なのだ。
  3. このブームは、効率や正解だけではない「人生の豊かさ」のヒントを僕らに教えてくれる。

タイパ社会への逆襲:Z世代の3つの本能

ここからが本題だ。

なぜタイパ社会に生まれ育った彼らが、非効率の象徴である平成レトロに惹かれるのか。 それは、彼らが「失敗が許される安全な場所」で、人間が本能的に求める3つの感覚を取り戻そうとしているからに他ならない。

1. 「ありのまま」を肯定する、身体性の回復

僕らはデジタルに最適化された結果、あまりにも「身体」を置き去りにしてしまった。 それだけではない。 加工や修正が自由自在なデジタル世界は、「ありのままの自分」に対する肯定感を静かに蝕んでいく。

その反動が、物理的な「手触り」や「手間」への渇望となって現れるのだ。

CDのジャケットを丁寧に開ける感触。 iPodのホイールを回す指先の感覚。 そして何より、修正の効かない「写ルンです」やチェキの一発撮り。

ピンボケしたり、光が入りすぎたり、現像するまでどう写っているか分からない。 現代の基準では「失敗」かもしれないその結果が、「エモい」という価値に転換される。 これは、加工されていない「本物(オーセンティック)」の記録であり、不完全な「ありのまま」が肯定される体験なのだ。 タイパを追求し、常に完璧な結果を求められる日常からの、見事な逃避行と言えるだろう。

2. 「自分の時間」を取り戻す、自己決定感の獲得

次に、彼らは「自分の時間」の主導権を取り戻そうとしている。

タイパの良いコンテンツは、アルゴリズムによって最適化され、僕らの元に届けられる。 それは快適だが、一方で僕らは知らず知らずのうちに、コンテンツを「消費させられている」状態に陥りがちだ。 そこには「自分で選んでいる」という感覚、すなわち「自己決定感」が希薄になっていく。

対して、平成レトロのアイテムは、徹底的にユーザーの能動性を要求する。 MDに入れる曲順を悩み、カセットテープに手書きでラベルを作り、プリクラに自分の手で落書きをする。

手間のかかる不便なモノだからこそ、そこには「自分で工夫し、使いこなす」という主体的な関与が生まれる。 非効率な制約が、かえって彼らの創造性を刺激し、「これは自分の体験だ」という強烈な自己決定感を与えているのである。

3. 「安全な失敗」を共有する、新たな繋がり

そして最後に、非効率な時間は「失敗が許される繋がり」を生み出す。

SNSで誰もが「キラキラした結果」を発信する現代において、「失敗」は隠すべきものとなった。 だが、平成レトロの世界では、その価値観が逆転する。

前述の通り、「写ルンです」の失敗写真は「エモい」と称賛される。 この「失敗が許されるカルチャー」は、Z世代にとってまさにセーフティゾーンなのだ。

「こんな変な写真撮れた!」「この曲、MDに入れるの失敗した(笑)」

そんな「安全な失敗」の体験を共有することが、完璧な結果を自慢し合うよりも、よほど強い共感と繋がりを生む。 同じアイテムを持ち、同じ非効率な「時間」と「失敗」を共有すること。 それこそが、個人化が進む社会で僕らが渇望する、本質的な安心感の源泉なのである。


まとめ:タイパの呪縛から逃れるために

平成レトロのブームは、単なる懐古趣味ではない。 タイパという名の「失敗恐怖」と「正解主義」に囚われた現代社会への、 Z世代からのアンチテーゼなのだ。

この現象から、僕らは明日から実践できる3つのヒントを受け取ることができる。

  1. プロセスを味わえ。 結果だけでなく、そこに至るまでの試行錯誤や回り道を楽しむことだ。 料理、勉強、仕事、あらゆることに「遊び」の要素を見出してみよう。

  2. 自己決定の領域を広げろ。 アルゴリズムに身を委ねるだけでなく、あえて手間のかかる選択をしてみる。 自分の五感と頭で考え、選ぶ。その感覚を取り戻すことだ。

  3. 失敗を愛し、共有せよ。 一見、非効率や無駄に見える「失敗」こそが、あなたという人間の魅力を深める。 寄り道や負け戦を、もっと自分に許可し、笑い話として誰かと共有してみよう。

さて、あなたの引き出しの奥にある思い出の品から、どんな「愛すべき失敗」を探し出せるだろうか?


おすすめの本

この記事で触れたような、効率化社会や、これからの時代の価値観について、より深く知りたい方にはこちらの本がおすすめだ。

『マーケターのように生きろ: 「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動』

なぜ、あの人はいつも「選ばれる」のか? 本書は、自分の価値をどう見つけ、どう伝え、どう高めていくかを「マーケティング」の視点から解き明かす。会社員、フリーランス、経営者、すべての働く人にとって、これからの時代を生き抜くための必読書と言えるだろう。

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